トップ情報三次元立体音場スピーカーに関する情報第一回 三次元スピーカー

第一回 三次元スピーカー



 ● 三次元立体音場(NDR)スピーカーの後継者探し

 編集長から三次元立体音場スピーカーの話を頂戴したのは03年9月中頃の事です。東京・秋葉原にある光陽電気の河野社長が、数十年にわたって研究されている技術をとぎらせることなく引き継いで欲しいという希望で、受け継いでもらえる人と組織を探しているという内容の話でした。

 河野社長は、お年も90才を過ぎておられるので、今をおいてはないと判断されたのでしょう。その後1ヶ月ほどして河野社長とお会いする事になりました。長年培ってこられた技術の積み重ねには余るほどの耳を傾けるものがあると思い、私も喜んでお話をお伺いすると共に音を聴かせていただきました。

 A&Vvillageの広告を通してしか知らなかった三次元立体音場スピーカーですが、社長じきじきに説明してくださいました。技術的な部分で充分に理解できないところも私の浅学のせいでありましたので、先ずは代表的なスピーカー(NDR-167MkU\54,0001本)をワンセット買って聴かせて頂く事から始めようと思いました。

 光揚電気の試聴室ではラフなセッティングなものですから、自分の家で聴かないと本当の良さが充分に分らないと思った事も理由の一つです。しかし光陽電気のリスニングルームのその場でも、大体ですが左右のスピーカーの位置関係だけをいままでの自分が培ってきたノウハウで調整させて頂くと、うんと定位がシッカリとしてきました。

 これなら大いに可能性があると感じましたので、お引き受けさせて貰う事としました。とりあえず、私なりのノウハウを織り込んだ物を先ずキャドで図面を引き、その後理論立てた構想を述べさせて頂くということを約束を致しました。

 最低限満たさなければならない三次元立体音場スピーカーの河野さんの基本的な考えは、正三角形の120度の面にユニットを3個取り付ける事です。それによって初めて、広がりと、奥行きに加えて高さが再生され、広がり・奥行き・高さのX、Y、Zの3次元軸で表現可能になるというのです。

 その条件の中で、私なりに研究してきた「音のカラクリ」をスピーカー作りに生かす絶好の機会です。特に形状と構造が今回のキーワードである事は間違いありません。あっと驚くような素晴らしい三次元スピーカーを完成させるつもりです。

 ● 開発のコンセプト

 編集長との打ち合わせの結果、開発のコンセプトは次のように決まりました。

卓上に置けるぐらいで手の平に載るサイズ。
24時間聞いていても飽きない音。 
オーディオ的というよりも音楽性を重視した音作り。
シンプルなフルレンジユニットを使用。
誰でもが買いやすい値段である事。

 そして、私には8pのスピーカーユニットが6個与えられただけです。その8pのスピーカーであっても3個取り付けるとなると、後ろのマグネットが当たらないようにするだけで一辺の長さが30pぐらいになります。これでは大きすぎるので、イスラエルの国旗のように正三角形を二つ組み合わせた形からはみ出た小さな三角形を除いた状態の六角形にしました。

 先ず外形寸法を決めなければなりません。これから先は設計の仕事をさせている息子と私の二人の共同作業になります。カイザー寸法で最初の基準になる高さを0.2kaiser(210ミリ)にすると、8pユニットが付く中での音の良いぎりぎりの最小幅は、イメージ上では97oに、そして厚みは15oになります。

 この寸法で6角柱を形取ると短い辺の長さが149o、とがった所の長さは168oになります。大き過ぎず、小さ過ぎずで本格的オーディオの音の要素も失わない絶妙のサイズであります。こうして図面は一気に描き上がりました。

 でも問題はこの先です。6角柱という形状はすべての面がお互いに相対する面を持っているので定在波という点において、スピーカーボックスとしては最悪の物です。ですから、スピーカー設計のプロの立場から見れば絶対に避けて通る道のはずです。


 ● 自分の作った格言まで覆しかねない無謀な挑戦

 特にカイザーの格言についてご存知の方であれば、「カイザーは何を血迷ったのか?!」と思うでしょう。そのカイザーの格言とは次の三つです。

鳴るように出来ているものは、鳴るようにしてやれば鳴ります。
鳴るように出来ているものを、鳴らないようにしているから鳴らない。
鳴らないようにしか出来ていないものは、鳴らそうとしても鳴らない。

 その自分が作った格言をも覆しかねない無謀な事をやろうと目論んでいるのです。「鳴らないようにしか出来ていないものでも、やり方次第ではここまで出来る!」というものを、実際に証明して見せたいのです。「音のカラクリ」を研究している立場であるからこそ、他の誰もがやらないことを敢えてやる価値があるのです。

 この場合アンセオリーに立ち向かうのですから、普通の方式では不可能です。即ちイチローのバッティングに見られるように、生きた球を一見追いかけているようですが、軸はぶれず、そのまま水平移動して実は迎える形を作り上げているのです。そうして、世界中の誰も出来ない方法で自分のポイントを作り出す事が出来るのです。正にピンポイント!、それは青木功のスイングやパッティングにも同じような感覚を憶えます。それらは、素人が真似をしたら絶対に失敗するという見本のようなものです。

 ● 吸音材は一切使わない

 スピーカーのエンクロージャーとしてオーソドックスなのは四角い箱型です。これも定在波から考えると良い物ではありませんが、吸音材を使うことによって何とか避けているのです。それが今回の試みは吸音材を一切使わない方式を採ります。

 6角形という形はすべての面の振動がいつまでも減衰しないで内部留保します。それら3個のスピーカーが発生させた振動を迷惑なものと考えないで、有り難い存在と考える事は出来ないか?、というのが今回の発想の元になっているのです。

 ● 加速度配線とスプリングエコーの効果

 内部配線材に程よく硬い物を使って、お互いのユニット間を繋いでいるケーブル同士が絡み合って生まれるスプリングエコー効果によって音楽性を引き出そうという試みです。それは、車の排出したガスを再利用してタービンを回し、更なるパワーを得ようというのと似た考えです。

 もちろん、生き生きとした音楽性を引き出すには、この最近開発した加速度配線という技術を使わずしては出来ません。今回は3個のユニットを直列結線するのですが、だんだんと配線の長さをループ状に長くして音楽のエネルギーを高めてやるのです。


 ● 楽器とスピーカーを親に持つハーフならぬダブル

 木で出来た弦楽器では吸音材は一切使いませんが、その分形状に工夫がなされており、お互いに相対する面を持たないように巧みに曲線を採用してあります。そうした構造であるからこそ、箱を美しく響かせる事が出来るのです。しかし、楽器というものは自分だけが持っているある種麻薬的な固有の魅力のある音を奏でれば役割を果たした事になります。

 しかし、スピーカーという物はあらゆる楽器の音や、人の声を偏る事無く忠実に再生しなければならない宿命を負っています。当然の事ながらキャラクターというものは歓迎されるものではありませのでそれ故難しいのです。

 この度の三次元立体音場スピーカーは楽器と同じ発想で、箱を響かせて魅力ある音を作り出そうという試みなのです。いちおう音が出るところまで完成したのですが、その出来栄えについては次回のお楽しみという事に致しましょう。

 (*編集部より 12月に試作1号機ができあがりました。河野社長にもお聴きいただき、大変満足だというお話をいただいております。三次元立体音場スピーカーは、素晴らしい可能性の中で出発いたしました。次号以降の記事をご期待ください。このプロジェクトはコスト計算をした上で、早急に商品化の方向を煮詰めます。商品化はもう少々お待ち下さい。次号で方向付けをはっきり致します)



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